大判例

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大阪高等裁判所 平成3年(ネ)668号 判決 1993年6月29日

控訴人

ベルギーダイヤモンド株式会社

右代表者代表取締役

小城剛

控訴人

小城剛

右両名訴訟代理人弁護士

伊藤文夫

被控訴人

香積喜静

被控訴人(一審原告亡茂山昌司訴訟承継人)

茂山久代

茂山寛

茂山聖

茂山さゆり

右茂山寛、茂山聖、茂山さゆり法定代理人親権者母

茂山久代

被控訴人

黒木淑子

土屋要

山本美千子

一井ゆた子

藤原まし子

寺田光子

大形藤治

喜多倫子

椿郁苑

西馬聖美

前田厚子

被控訴人ら一六名訴訟代理人弁護士

喜治栄一郎

上原武彦

大深忠延

北岡満

千森秀郎

西口徹

平野鷹子

若林正伸

浅岡美恵

飯田昭

折田泰宏

湖海信成

下谷靖子

豊田幸宏

黛千恵子

村井豊明

山﨑浩一

伊東香保

梶原高明

木村治子

木村祐司郎

小林広夫

永田徹

松重君子

山根良一

吉井正明

渡邊守

主文

一1  原判決中、被控訴人大形藤治、同喜多倫子、同椿郁苑に関する部分を取消す。

2  右被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

二1  原判決中、その余の被控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。

2  控訴人らは、連帯して、その余の被控訴人らそれぞれに対し、別紙認容額一覧表の合計欄記載の各金員及び同表の内金額欄記載の各金員に対する昭和六〇年六月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  右被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人らに生じた費用の一三分の三と被控訴人大形藤治、同喜多倫子、同椿郁苑に生じた費用は右被控訴人ら三名の負担とし、控訴人らに生じたその余の費用とその余の被控訴人らに生じた費用は、これを一〇分し、その三を控訴人らの負担とし、その余はその余の被控訴人らの負担とする。

四  この判決の第二項2は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取消す。

2  被控訴人らの本訴請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する(但し、一審原告茂山昌司死亡に伴う訴訟承継に基づき、原判決添付の別紙損害一覧表中、同一審原告に関する部分は、別紙損害一覧表の番号2欄のとおり変更された)。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決五枚目裏一一行目冒頭から同二五枚目裏一一行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。

一  「原告」を「被控訴人」と、「原告ら」を「被控訴人ら(一審原告亡茂山昌司を含む)」と、「被告」を「控訴人」と、「被告会社」を「控訴人会社」と、原判決添付の別紙損害一覧表を別紙損害一覧表のとおりに、それぞれ改める。

二  原判決七枚目裏一行目末尾の「である」を「であり、総称してコミッションと呼ばれる」と、同三行目ないし四行目の「累積販売媒介額」及び同八枚目表一行目、同六行目、同九行目の「販売媒介額」をいずれも「販売媒介累積額」と、同一一枚目裏一行目の「成功すれが」を「成功すれば」と、それぞれ改め、同一三枚目表一一行目の「なるのであり、」の次に「本件組織は、」を加える。

三  原判決一四枚目裏九行目の「被告会社は、」の次に「リクルート(会員勧誘)の有限性を顧客に気付かれては組織自体が成り立たないので、リクルートに際しては、必然的にその有限性を秘匿し、種々の不公正な勧誘方法を取ることとなるのであり、」を、同一〇行目の「組織するために、」の次に「MCCでビジネス会員に教え込んだ定型的、組織的方法により、ビジネス会員をいわば控訴人会社の手足として、次のとおり、」を、同一二行目の「被告会社」の次に「のビジネス会員」を、同一五枚目裏六行目の「数人」の前に「ロビーの豪華な応接セットで」、後に「のビジネス会員」を、それぞれ加える。

四  原判決一六枚目裏三行目の次に、改行して次のとおり加える。

売買契約などにおける取引の自由の基礎には、顧客の冷静で合理的な判断が保証されねばならず、右のように、これを意識的に妨げようとする勧誘方法は、契約締結における意思決定の自由を侵害する違法なものというべきである。そして、マルチ商法において違法な勧誘がなされるということは、右商法の組織自体の違法性から必然的に導き出される結果であって、マルチ商法においては組織の違法性と勧誘の違法性とは密接不離の関係にある。

五  原判決一七枚目表八行目の「損害賠償責任」の次に「(控訴人会社については、代表取締役の不法行為による民法四四条、商法二六一条三項に基づく損害賠償責任を含む)」を、同裏一〇行目冒頭の「るために、」の次に「無価値かつ」を、同一八枚目表末行の「原告らは」の次に「、控訴人らの違法な勧誘により」を、それぞれ加え、同行末尾の「したことにより」を「せしめられ、無価値かつ不必要なダイヤを購入せざるを得なくなり、その被害回復に苦慮し」と改める。

六  原判決一八枚目裏七行目の次に、改行して「6 相続 一審原告亡茂山昌司は、平成元年五月一日に死亡し、妻である被控訴人茂山久代が二分の一、子である被控訴人茂山寛、同茂山聖、同茂山さゆりが各六分の一ずつの法定相続分割合で、亡茂山昌司の権利義務を承継した。」を、同一九枚目表八行目の次に、改行して「6 同6は認める。」を、それぞれ加える。

七  原判決一九枚目表末行の次に、改行して次のとおり加える。

しかしながら、被控訴人ら主張のマルチ商法必然的破綻論は、マルチ商法は人口の有限性の障害のゆえに破綻するという現実の世界では明らかに出現しない累乗的拡大という事態を観念的に発生するものと断じている点において論理に飛躍がある。もし累乗的拡大論が妥当するならば、控訴人会社の会員数は営業開始八か月後の昭和五九年二月には、既に一九万人に達していなければならないのに、現実には二四か月後の昭和六〇年六月においてすら一七万人強でしかなかった。つまり、累乗的拡大論は歴史的現実に合致していない。

また、マルチ商法において組織拡大が行われるためには、当然のことながら組織参加者自身による組織拡大行動が伴うことを要するが、その行動が導き出される原因としては「契約による義務付け」、即ち、一定の定められた規模の組織拡大の義務を履行しないと組織参加者に契約から発生する不利益が生じ、あるいは契約本来の目的である期待利益が得られないという契約上の構造に基づいて、組織拡大の牽引力を生ぜしめるタイプと「純粋な経済的動機付け」、即ち、定められた一定規模の組織拡大を実現しなくても契約上の不利益はないが、組織拡大をすればするほど大きな利益が獲得できるため、利益を得たいという強度の欲求が組織参加者に普遍的に発生することにより、組織拡大の牽引力を生ぜしめるタイプとが考えられるところ、本件商法は、そのいずれの原因も欠くものである。

即ち、本件商法は、無限連鎖講が、例えば会員は一人が三〇万円の出費をして入会し、最低二人を勧誘し順次五段階三一人のピラミッドが完成すれば三〇〇万円を取得するが、これが完成しなければ丸損となる旨、入会時の契約で義務付けたりするのとは異なり、契約上、何らリクルートすべき人数やピラミッドの完成を義務付けてはいない。

また、本件商法は、勧誘を受けた者に対し、強度の利益追求欲求を喚起する機能は有しなかったものである。即ち、本件商法が勧誘を受けた者の心理に対して与えた動機付けの態様を見るに、先ず、① ダイヤにも本件商法にも興味がなく、本件組織に参加せずダイヤも購入しなかったという者が、勧誘を受けた者全体の約七〇パーセントにのぼり(<書証番号略>)、さらに、②ダイヤには興味があり一つ位なら購入してもよいが本件組織に参加する気はなく、ダイヤは購入したが本件組織には参加しなかったという者が、勧誘を受けた者全体の一六パーセントを占め、そのほかに、③ ダイヤを購入し本件組織に参加したが活動する気はないという者や、④ ダイヤを購入し本件組織に参加したが、後はいわば「おまけ」として小遣い稼ぎをしてみようという程度の者もいたと考えられる(右③④の者が勧誘を受けた者全体に占める割合は不明である)。そうすると、⑤ ダイヤを購入したうえ本件組織を利用して一つ金儲けをしてやろうという者もいたではあろうが、右⑤の者が勧誘を受けた者全体に占める割合は不明であり、右①②の数値に照らし、その割合は大きいものではあり得ないのであって、本件商法は、勧誘を受け本件組織に加入した者の大多数にリクルートに狂奔するべき極めて強い動機付けを与えるようなものではなかった。

そのように、累乗的拡大への動機付けは本来普遍的なものではなく、一部の者による利益追求行動のみではマルチ組織の拡大には限界があり、その結果、マルチ組織の拡大は等比級数的なものにはならず、一時的な急成長とその後の漸増に落ち着くというのが実態なのであり、マルチ商法心然的破綻論の基礎にある累乗的拡大論は現実を無視したものといわねばならない。

八  原判決二〇枚目表八行目の「点については、」の次に「人間関係やロコミによる販売戦略は、何もマルチ商法に限らず、従来の保険外交員等に共通することであって、」を加え、同二一枚目表一行目の「実践」を「控訴人会社の担当者を海外へ派遣し、現地での生産工程の管理、合理化を図るなど」と改め、同裏一一行目の「マルチ商法」の次に「それ自体」を、同二三枚目表一〇行目の「設けていない。」の次に「むしろ、逆に控訴人会社は、当初七日(後に四日に変更)の熟慮期間を設定し、その期間の経過をもって自動的に契約を解消する措置をとってきた。」を、それぞれ加える。

九  原判決二四枚目裏三行目の次に、改行して「被控訴人らが〔勧誘行為の違法性〕として主張するところのものは、被控訴人ら顧客の現実の体験ではない。それはマルチ商法批判の文献の中で繰り返されてきた文章表現=フィクションである。」を加え、同二五枚目表六行目の「履行を了した」を「履行を了し、被控訴人らの手元には購入代金に見合う商品が残されている」と改め、同裏八行目の次に、改行して「そして、被控訴人らは小売商品としてダイヤを購入したのであるから、その評価に当たっては小売商品としての価値を基本として評価すべきである。」を加える。

第三  証拠関係<省略>

理由

(証拠の挙示について)

証拠の挙示方法及び書証の成立に関する記載の省略等については、原判決二六枚目表二行目冒頭から同一〇行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する(但し、「原告本人尋問」を「原審における被控訴人本人尋問」と、「原告」を「被控訴人」と、それぞれ改める)。

第一金銭配当組織と結合した商法の違法性について

被控訴人らは、本件組織は商品販売に名を借りた旧無限連鎖講防止法(昭和六三年法律第二四号による改正前の無限連鎖講の防止に関する法律)にいう金銭配当組織であり、また、本件商法は旧訪問販売法(昭和六三年法律第四三号による改正前の訪問販売等に関する法律)が実質的に禁止しているマルチ商法である旨主張するのに対し、控訴人らはこれを否認し、本件商法が取り扱う商品は上質の宝石であって、本件組織は商品販売組織であり、また、旧訪問販売法はマルチ商法それ自体を禁止してはおらず、本件商法は物品の再販売ではないから同法を脱法したものとはいえない旨主張する。

そこで、まず、旧無限連鎖講防止法及び旧訪問販売法といわゆるマルチ商法との関係について判断する。

一旧無限連鎖講防止法の制定の経緯及び同法違反行為の違法性

1 旧無限連鎖講防止法が制定されるに至ったのは、周知のとおり、昭和四二年、熊本に開設された「第一相互経済研究所・天下一家の会」による「ねずみ講」が全国的規模で蔓延するに至ったところ、この講は、ねずみ算式に加入者を増加させ、後続加入者からの送金によって先順位の加入者が多額の利益を受ける仕組であり、そのような仕組は、ねずみ算式の加入者の増加が理論的にも現実的にも実現不可能であって終局的に破綻を免れないのに、一般大衆の射倖心を利用し、詐欺的で誇大な勧誘方法によって、長期間に膨大な会員を加入させた結果、後続会員が続かないため予期した送金を受けらない会員が続出し、しかも、後続会員の勧誘が自ずと親族や知人といった信頼関係のある者の間で行われざるを得なかったため、一旦行き詰まってしまうと会員相互間に不信や憎しみを生じ、勧誘者に対する拠出金の返還請求等に伴う暴力沙汰や自殺、夜逃げなどの事件を各地に生ぜしめ、これが深刻な社会問題となったためであり(長野地方裁判所昭和五二年三月三〇日判決・判例時報八四九号三三頁、静岡地方裁判所昭和五三年一二月一九日判決・判例時報九三四号八七頁参照)、同法は、「ねずみ講」がもたらす右のような社会的な害悪を防止することを目的として、昭和五三年一一月一一日法律第一〇一号をもって公布され、昭和五四年五月一一日から施行されることとなったものである。

2  旧無限連鎖講防止法は、一条において無限連鎖講の有する反社会性を宣言し、二条において無限連鎖講とは「一定額の金銭を支出する加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の支出する金銭から自己の支出した額を上回る金銭を受領することを内容とする金銭配当組織をいう」と定義している。

ところで、前記「ねずみ講」の仕組は、例えば、最初に開設された「親しき友の会」の場合、入会申込者は計二〇八〇円を送金等することにより、第六順位で講に加入し、新規入会者を四名獲得することにより第五順位に昇格し、以下同様に新規入会者が各自四名入会者を獲得することによって、その都度順位が順次昇格し、第一順位になったときに、六代目の後輩会員一〇二四名から合計一〇二万四〇〇〇円の送金を受けることとなるなど、ほとんどが後続入会者による一定のピラミッド組織が完成することによって初めて送金を受けられる仕組であった(熊本地方裁判所昭和五三年一一月八日判決・判例時報九一四号二三頁参照)。

しかし、同法二条の定める右定義においては、そのようなピラミッド組織が完成することは金銭配当の要件とはされていないから、ピラミッド組織の完成を要件としない金銭配当組織であっても、右定義に該当する限り、同条にいう無限連鎖講に該当するものと解される。

3  旧無限連鎖講防止法は、三条において、二条に定義された金銭配当組織の開設もしくは運営、右金銭配当組織への加入、もしくは加入の勧誘、またはこれらを助長する行為を禁止し、右禁止された行為のうち助長行為を除く各行為につき、五条において、右金銭配当組織を開設し、または運営した者は、三年以下の懲役もしくは三〇〇万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する旨、六条において、業として右金銭配当組織に加入することを勧誘した者は、一年以下の懲役または三〇万円以下の罰金に処する旨、七条において、右金銭配当組織に加入することを勧誘した者は、二〇万円以下の罰金に処する旨、それぞれ定めている。

そうすると、同法は、三条において、二条に定義された金銭配当組織に関与する一切の行為の反社会性が、社会の一般通念からみて、もはや容認できない程度に違法なものであることを明らかにするとともに、五条ないし七条において、そのうちでも特に違法性の強い行為から順に、長期三年の懲役刑を含む処罰の対象とする旨を宣明したものというべく、そのように懲役刑を含む刑罰をもって禁止されたものであるところの右金銭配当組織を開設、運営し、顧客に対しこれに加入することを勧誘する行為は、同法が施行された昭和五四年五月一一日以降においては、改めてその違法性について論じるまでもなく、民法上も当然にそれ自体違法なものとして不法行為を構成し、また右勧誘行為による加入契約は公序良俗に違反するものとして無効であると解するのが相当である(前記長野、静岡各地方裁判所の各判決が、前記「ねずみ講」への加入契約の無効や勧誘行為の不法行為性を肯定するために、右講の仕組自体や具体的な勧誘方法等の判断を経たうえで、実質的な公序良俗違反性や違法性を認定しているのは、各判決の事案がいずれも同法の施行以前のものであったからである)。

二旧無限連鎖講防止法が禁止する金銭配当組織と結合したマルチ商法の違法性

1 いわゆるマルチ商法とは、周知のように「マルチレベル・マーケッティング・プラン」(多階層販売方式)の略称であり、実質的にはセールスマン(販売員)に当たる加入者を、法律形式的には商品を自己の計算で仕入れて再販売する独立の商人として取扱い(無店舗販売方式が採られ、加入者は店舗を有する必要がない)、これを普通は三ないし四のレベル(階層)に区分し、上級のレベルほど多額の出資または商品購入を資格要件とする反面、商品購入価格の割引率、リベートを多くするといった有利な待遇をする仕組であるが、その基本的特色は、さらに、既加入者は、次々と他の者を新規に自己の下位のレベルに勧誘、加入させ、または他の加入者のレベルを引き上げる(これを総称して「リクルート」と呼ぶ)ことにより、商品の再販売によって得られる中間マージンをはるかにしのぐ金銭(リクルート利益)を取得することができる点にある(大阪地方裁判所昭和五五年二月二九日判決・判例時報九五九号一九頁参照)。

右のように、「マルチ商法」の名称は、本来、法律形式的には再販売(販売の相手方が商品を買い受けてさらに販売すること)の形式を取る仕組の商法を指称するものであったが、これと異なり、法律形式的には、「商品の再販売」ではなくて、「商品の購入と商品の販売媒介委託が結合した形態」をとり、次々と新規購入者への商品販売を媒介(リクルート)することにより、多額の手数料等(リクルート利益)を取得することができる仕組のものを「マルチまがい商法」と呼び、あるいは、これも含めて、「マルチ商法」と呼ぶ例もあるので、以下、これも含めた広義で「マルチ商法」の名称を用いることにする。

2  マルチ商法は、多額のリクルート利益が得られることを宣伝し、新規加入者のリクルートによって、組織がねずみ算的に広がっていく自己増殖的性質を持つことから、「ねずみ講式販売方式」とも呼ばれ、また、新規加入者が連鎖して組織がピラミッド状になることから、「ピラミッド式販売方法」とも呼ばれるように、基本的に、旧無限連鎖講防止法が禁止する違法な前記金銭配当組織と類似した「リクルート利益配当組織」部分を有するものであり、右組織部分とそれ自体は本来適法な「商品流通を目的とする組織」部分とが結合した構造を持つものということができる。

従って、もし、そのマルチ商法の「リクルート利益配当組織」が旧無限連鎖講防止法二条にいう前記金銭配当組織の要件を充たし、しかも、取扱われる商品が客観的にほとんど無価値であって、加入者もその商品の流通にはほとんど関心がなく、もっぱらリクルート利益のみを目的としてこれに加入し、リクルート活動に専念するというような、商品流通といういわば適法部分が形骸化している場合には、その商法は、商品の流通に名を借りたもので、実質的には、旧無限連鎖講防止法の禁止する金銭配当組織そのものにほかならないから、そのマルチ商法組織の開設、運営、加入勧誘の各行為は、同法所定の前記刑罰をもって処罰されるべき犯罪行為であるとともに、民法上も不法行為を構成するものというべきである(「E・Sプログラム」なる名称の人工宝石販売組織の主宰者が、右組織は人工宝石の販売に名を借りた金銭配当組織であり、旧無限連鎖講防止法二条に定める要件を充たす金銭配当組織に当たるとして、同法五条違反により懲役一年六月の実刑に処せられた事例につき、最高裁判所昭和六〇年一二月一二日判決・刑集三九巻八号五四七頁、原審・東京高等裁判所昭和五八年七月二八日判決・高裁刑集三六巻二号二四七頁参照)。

3 マルチ商法は、我が国においては、株式会社エー・ピー・オー・ジャパンが、昭和四六年一〇月からマークⅡペーハーインジェクター(以下「MKⅡ」という)等の商品の再販売に、ホリディマジック株式会社が、昭和四八年二月から化粧品の再販売に、それぞれこれを実施し始めたものであるが、マルチ商法を採用する企業が増加するにつれて、「ねずみ講」の場合と同様に、これに参画したが商品の再販売またはリクルートができず、被害を受ける者が増加し、被害例及び苦情の発生が昭和四八年ころから顕著となり、右MKⅡの性能、安全性やマルチ商法自体についての問合わせ、苦情が通産省や各地の消費者センター等の公的苦情受付機関に持ち込まれ、マルチ商法に参画したため、多額の借金等の債務を負い、あげくの果てには離婚、一家離散などに追い込まれる者も現れて社会問題化したことから(<書証番号略>。前記大阪地方裁判所昭和五五年二月二九日判決参照)、通産省産業構造審議会流通部会の昭和四九年一二月一六日付第一一回中間答申(<書証番号略>)などを経て、マルチ商法の規制をおり込んだ旧訪問販売法が、昭和五一年六月四日法律第五七号をもって公布され、同年一二月三日から施行されるに至った。

4  旧訪問販売法は、右のような制定の経緯から、「商品の再販売」と「リクルート利益配当」の結合したマルチ商法である「連鎖販売取引」につき、一二条以下において、勧誘、広告、契約締結の方法等の各規制、契約解除権等を定め、二二条以下において、勧誘方法に関する規制に違反した場合は一年以下の懲役または五〇万円以下の罰金に、その余の規制に違反した場合は一〇万円以下の罰金に、それぞれ処する旨を定めている。

そうすると、旧訪問販売法は、マルチ商法のうち「商品の再販売とリクルート利益配当の結合したもの」については、「ねずみ講」についての旧無限連鎖講防止法とは異なり、たとえ、その「リクルート利益配当組織」が旧無限連鎖講防止法の禁止する違法な金銭配当組織の要件を充たすとしても、「適法部分である商品の再販売」の実質を有する限り、これを全面的に違法とし禁止するのではなく、同法一二条以下の規制に服することを条件としてこれを適法とし、もし右規制に違反すればこれを違法とし、長期一年(旧無限連鎖講防止法の場合は長期三年)の懲役刑を含む刑罰をもってこれを禁止しようとするものと解される。

右のように、旧訪問販売法の規制が旧無限連鎖講防止法の規制と異なるのは、右マルチ商法が、「ねずみ講」と異なり、「商品の再販売という本来適法な部分」と結合した構造を持っているからにほかならない。

従って、「商品の再販売」の法形式をとるマルチ商法であっても、その「リクルート利益配当組織」が旧無限連鎖講防止法二条の禁止する金銭配当組織の要件を充たし、しかも、取扱われる商品が客観的にほとんど無価値であって、販売員もその再販売にはほとんど関心がなく、もっぱらリクルート利益のみを目的としてこれに専念し、「商品の再販売という適法部分」が形骸化している場合には、実質的には、商品の再販売に名を借りた旧無限連鎖講防止法の禁止する金銭配当組織そのものにほかならないから、前記のとおり、そのマルチ商法組織の開設、運営、販売員勧誘の各行為は、同法所定の前記刑罰をもって処罰されるべき犯罪行為であるとともに、民法上も不法行為を構成するものというべきである(前記大阪地方裁判所昭和五五年二月二九日判決は、前記MKⅡの再販売の法形式をとるマルチ商法につき、MKⅡの商品的価値は皆無もしくはそれに等しい程度のものであり、同商法の組織はいわゆるねずみ講と大差はないから、その主宰会社らの加入勧誘等の行為は公序良俗に違反する違法なものであるとして、不法行為の成立を認めた。なお、付言するに、同判決が、同商法につき具体的な勧誘方法、商品の価値と誇大宣伝の有無、リクルートの具体的困難性等の判断を経たうえで実質的違法性を認定しているのは、同判決の事案が旧無限連鎖講防止法の施行以前のものであったからである)。

5  旧訪問販売法制定当時、「商品の再販売」ではなくて、「商品購入と商品販売媒介委託」の結合した法形式と「リクルート利益配当」が結びついた前記マルチ商法は、まだ発生しておらず、必ずしも予想されていなかったため(<書証番号略>)、旧訪問販売法はこれについては規定を欠いている。

そして、いずれもマルチ商法として「リクルート利益配当組織」部分は有するけれども、「商品の再販売」の法形式をとる場合には、購入した商品が再販売できなかったときは在庫商品を抱え込むこととなり、場合によっては大きな損害を被るおそれがあるのに対し、「商品購入と商品販売媒介委託」の結合した法形式をとる場合には、商品販売媒介に失敗しても、購入商品が無価値のものでない限り、その商品の購入価格に含まれた「リクルート利益配当の原資部分」(通常は、その商品の通常販売価格に上乗せされているであろう)以上の損害を被ることはない点において大きく異なるものがあり、また、そのように損害を被るおそれが小さければ、勧誘を受けた者が加入について抱く不安感も当然に小さい筈であるが、そのことは、また、当然に後続加入者への商品販売媒介(リクルート)を「商品の再販売」の場合より容易にする筈であり、商品販売媒介が容易であれば、現実の媒介活動に際しても、ことさらに誇大宣伝や詐欺的勧誘を要しないと考えられることからすれば、「商品購入と商品販売媒介委託」の結合した法形式をとる商法の場合の方が、「商品の再販売」の法形式をとる場合より、勧誘行為等の具体的な違法性及びリクルート失敗による損害が、より軽微であることは、その構造自体から明らかというべきである。

そうすると、同じマルチ商法であるからといって、旧訪問販売法の連鎖販売取引に関する規定を、直ちに「商品購入と商品販売媒介委託」の結合した法形式をとるものに適用し、前記規制違反を理由にこれを処罰し、あるいは不法行為とすることは、右のような構造上の差異からみても、罪刑法定主義の見地からしても、到底許されないものといわねばならない。

6  以上のとおりであるから、「商品購入と商品販売媒介委託の結合した法形式」と「リクルート利益配当」とが結びついたマルチ商法の違法性は、その商法の「リクルート利益配当組織」が旧無限連鎖講防止法の禁止する金銭配当組織の要件を充たす場合には、その商法ないし組織の全体において、その違法部分である「リクルート利益配当組織部分」と、その適法部分である「商品流通組織部分」とがそれぞれ占める割合の大小によってこれを決するのが相当というべきである。

そして、「リクルート利益配当組織」の原資は、結局のところ商品購入代金に含ませるほかはなく、組織の通常の経費及び利益に食い込ませるのでない限り、右原資部分はその商品の通常販売価格に上乗せするほかはないのであるから、商品購入代金中に占める「リクルート利益配当組織の原資」部分の割合をもって、右商法ないし組織全体に占める「リクルート利益配当組織部分」(違法部分)の割合とみなし、その割合の大小によって右商法の違法性を決するのが相当である(通常の商品販売契約と連鎖型金銭配当契約の合体した印鑑セットの売買契約〔通常販売価格五万円に連鎖型金銭配当の原資一三万円を加えた一八万円を売買代金とするもの〕につき、後者〔一三万円の出資にかかる連鎖型金銭配当契約〕の部分は、旧無限連鎖講防止法により禁止された無限連鎖講の実体を備え、公序良俗に反し無効であるとした名古屋高等裁判所金沢支部昭和六二年八月三一日判決・判例時報一二七九号二二頁参照。なお、原審・福井地方裁判所昭和六〇年三月二九日判決・同一一六一号一七七頁は、右売買契約を全体として無効としている)。

そして、商品購入代金中に占める「リクルート利益配当組織の原資」部分の割合が大きくて、右商法が全体として違法とされる場合には、商品購入代金中その商品の通常販売価格を超える部分が、右違法な商法によって加入者が被った損害に当たるものと解するのが相当である。

第二本件商法の違法性について

以上の見地から本件商法の違法性について判断する。

一本件商法の構造

1 請求原因1(当事者)、同2(控訴人会社におけるダイヤモンド販売の仕組)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  そうすると、控訴人会社の本件商法は、宝石を商品とする、「商品購入と商品販売媒介委託」の結合した法形式とコミッションと総称される販売委託手数料、指導育成料、オーバーライドの三種類の「リクルート利益配当」が結びついたいわゆるマルチ商法であることが明らかである。

3 そして、本件商品である宝石については、<書証番号略>、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

本件商品である宝石は天然石のダイヤを主力とするものであり、控訴人会社は、これをイスラエル、ベルギー、アメリカの取引業者から、子会社であるベルギー貿易株式会社に輸入させて同社から仕入れていた。そして、主力商品であるダイヤについては、東京宝石鑑別協会等の鑑定により、G・I・A(米国宝石学会)の基準で、カラー・グレード(色)はH以上の高水準、クラリティ・グレード(透明度)はVS1〜VS2で平均ないしそれ以上のランクのもの、カラット(重量)は平均して0.25〜0.30カラット、カット(仕上げ)はスタンダード以上と、カラットの点で若干小粒ではあるが、その他の基準では平均を超える概ね同程度の品質のものに揃え、販売に際しては、右鑑定機関作成の鑑定書(ダイヤ以外の宝石の場合は鑑別書)と控訴人会社作成の保証書を添付していた。

二本件商法における商品流通組織部分の実体

1 <書証番号略>(控訴人会社の財務部会計課係長であった松林康弘の司法警察員に対する昭和六二年三月一八日供述調書及びその末尾に添付の資料五の一ないし三〔同人作成にかかる控訴人会社の設立から倒産に至るまでの間の各月の損益累計残高表〕)によれば、控訴人会社の設立から倒産に至るまでの間の、宝石の仕入高及び売上高の毎月の累計額並びに毎月の「仕入高累計額の売上高累計額に対する割合」は、別表一のとおりであり、開業当初のため仕入と売上のバランスが取れていない昭和五八年四月から同年九月までを除く、同年一〇月から倒産までの二〇か月について見ると、毎月の「仕入高累計額の売上高累計額に対する割合」は、概ね二〇パーセント前後で推移しており、平均すると丁度二〇パーセントになることが認められる。

そして、右数値は、控訴人会社の業務部長として本件商品の宝石の仕入及び販売価格の設定を担当していた林孝登史が、<書証番号略>(別件訴訟における本人尋問調書)において、本件商品の宝石の仕入価格は販売価格の二〇パーセントであった(販売価格を仕入価格の五倍に設定した)旨供述しているのと合致する。

右事実からすれば、本件商品の仕入価格は販売価格の二〇パーセントであった(販売価格は仕入価格の五倍に設定されていた)ものと認めるのが相当である。

2 <書証番号略>、弁論の全趣旨によれば、控訴人会社は、イスラエル、ベルギー、アメリカの大手取引業者(サイト・ホルダー)から原石を直接買い付け加工させたうえで輸入することにより、海外のダイヤ研磨工場やダイヤ研磨ディーラー、輸出入業者等の流通経路を短縮し、本件商品の宝石の仕入経費を大幅に軽減した旨宣伝していたことが認められるが、仮に流通経路の短縮がなされていたとしても、それによる経費節減の具体的数値についてはこれを認めるに足りる証拠はなく、本件商品の宝石の輸入には前記ベルギー貿易株式会社が介在していたことや控訴人会社が二個目の商品購入の場合を除き会員に対し販売価格の値引きをしなかったことを考え合わせると、右流通経路の短縮が前記仕入価格及び販売価格に反映されていたとは直ちに認めることができないから、控訴人会社の仕入価格が一般の宝石販売業者の通常の仕入価格を下回るものであったとは直ちに認めることができないが、他面これを上回るものであったことを認めるべき証拠もないから、控訴人会社の仕入価格は一般の宝石販売業者の通常の仕入価格と同程度のものであったと認めるのが相当である。

3 <書証番号略>(ダイヤモンド相場四季報・一九八五年九月号)によれば、本件商品と同等の品質であるカラー・グレードH、クラリティ・グレードVS2のダイヤに、宝石販売業者が仕入価格の約五倍の小売価格を付けた例のあることが認められ、前記林孝登史は、<書証番号略>において、これを指して「大体仕入価格の五倍位が小売価格になるのがダイヤモンドの相場の常識である」旨供述している。

しかし、右<書証番号略>には、種々のグレードのダイヤについて、一般の宝石販売業者の仕入価格と小売価格との対比例が多数登載されているところ、小売価格が仕入価格の五倍以上や二倍以下の例はむしろ少数であり、ほとんどは小売価格が仕入価格の三ないし四倍程度であることが認められるから、一般の宝石販売業者の場合、小売価格の仕入価格に対する倍率は、右の多数例の中庸値である3.5倍程度と認めるのが相当である。

従って、本件商品の宝石についても、その通常小売販売価格は、一般の宝石販売業者の場合と同様に、仕入価格の3.5倍程度であったものと認めるのが相当であり、控訴人会社の仕入価格が一般の宝石販売業者の仕入価格と同程度であったと認めるべきことは前記のとおりであるから、本件商品の宝石の通常小売販売価格は、控訴人会社の仕入価格の3.5倍程度であったものと認めるのが相当である。

4 そうすると、前記認定のとおり、本件商品の仕入価格は販売価格の二〇パーセント(販売価格は仕入価格の五倍)であったから、本件商品の通常小売販売価格は、「控訴人会社の販売価格」の七〇パーセント(二〇パーセントの3.5倍)程度であり、控訴人会社は本件商品を通常小売販売価格より約四三パーセントほど割高の価格で販売していたものと認めるのが相当である(仕入価格の3.5倍が通常小売販売価格であるところ、仕入価格の五倍の販売価格で販売していたのであるから、5÷3.5=1.4285)。

従って、被控訴人らの購入した宝石の通常小売販売価格も、別紙認容額一覧表の「宝石の通常小売販売価格欄」に記載のとおり、同一覧表の「宝石の購入金額欄」記載の「控訴人会社の販売価格」の七〇パーセントに当たる金額であったものと認めるのが相当というべきである(なお、<書証番号略>には、控訴人会社から購入した本件商品の一一例〔うち被控訴人ら購入のものは一例のみ〕につき、それらの商品の「宝石業者間の取引価格」は「控訴人の販売価格」の二〇パーセントよりもずっと安いものである旨の宝石販売業者の鑑定意見の記載があるが、右宝石販売業者が宝石鑑定につき如何なる資格、技術を有する者かは証拠上明らかでなく、一販売業者の主観的な意見に過ぎないものと見られることを考慮すると、一般の宝石販売業者の通常仕入価格はその鑑定意見にいう「宝石業者間の取引価格」の二倍程度までの幅のあるものと見るのが相当であり、前記のとおり通常小売販売価格は仕入価格の3.5倍程度と認めるべきであるから、本件商品の通常小売販売価格は右「宝石業者間の取引価格」の七倍程度までと認めるのが相当と考えられるところ、右鑑定意見にいう「宝石業者間の取引価格」を五ないし七倍すると、右一一例中、九例まで、本件商品の「控訴人会社の販売価格」の七〇パーセントに当たる金額、即ち前記認定の本件商品の通常小売販売価格に概ね近似する。従って、右甲号各証は必ずしも前記認定に反するものではない)。

5  以上に認定の事実からすれば、本件商法における適法部分である「商品流通組織部分」は、通常小売販売価格より約四三パーセント高の販売価格によるものとはいえ、天然石である宝石の「購入及び販売媒介委託」という実質を有するものであり、また、別表一のとおり、量的にも、最盛期には、本件商品の仕入高は毎月六〇〜九〇億円、売上高は毎月三〇〇〜四〇〇億円にも及んでいるのであって、これらの事実を無視して、本件商法が単なる金銭配当組織に過ぎないという被控訴人らの主張は失当というほかはない。

三本件商法におけるリクルート利益配当組織部分の違法性

1  前記<書証番号略>(控訴人会社の会計課係長の司法警察員に対する供述調書及びその末尾に添付の控訴人会社の設立から倒産に至るまでの間の各月の損益累計残高表)によれば、控訴人会社の設立から倒産に至るまでの間の、宝石の売上高及び「外交員報酬」の毎月の累計額並びに毎月の「外交員報酬累計額の売上高累計額に対する割合」は、別表二のとおりであるところ、右の「外交員報酬」というのは、会員に配当されたリクルート利益にほかならず、また、右の毎月の「外交員報酬累計額の売上高累計額に対する割合」の数値は、リクルート利益配当原資が本件商品購入代金(販売価格)中に占める割合を、ほぼ正確に示すものとみて差し支えないものというべきである。

そして、右別表二のうち、開業当初のため販売媒介が軌道に乗っていない昭和五八年四月から同年九月までを除く、同年一〇月から倒産までの二〇か月について見ると、毎月の「外交員報酬累計額の売上高累計額に対する割合」は、概ね四三パーセント前後で推移しており、平均すると約四三パーセントになることが認められる(右数値は、前記認定のとおり、「本件商品の販売価格」の通常小売販売価格に対する増価率が約四三パーセントであるのと一致する)。

そうすると、本件商法ないし本件組織全体に占めるリクルート利益配当組織部分の割合は、約四三パーセント程度であったものと認めるのが相当である。

そして、右のとおり、本件商品の販売価格中、リクルート利益配当原資が四三パーセントを占めていたとすると、前記のとおり、本件商品の通常小売販売価格は「本件商品の販売価格」の七〇パーセントであり、「本件商品の販売価格」中、通常小売販売価格を超える部分は三〇パーセントであるから、「本件商品の販売価格」は単純に通常小売販売価格にリクルート利益配当原資を上乗せしたものではなく、リクルート利益配当原資が通常小売販売価格部分(即ち、控訴人会社の「経費及び利益」の部分)に一三パーセントほど食い込んでいたものと認められる(「本件商品の販売価格」中、前記のとおり仕入価格が二〇パーセントであるから、リクルート利益配当原資が四三パーセントとなれば、控訴人会社の「経費及び利益」部分の占める割合は残三七パーセントとなる)。

2 次に、本件商法におけるリクルート利益配当組織部分が、旧無限連鎖講防止法の禁止する同法二条の金銭配当組織の要件を充たすものであるかにつき判断する。

(一) まず、右のように、「本件商品の販売価格」がリクルート利益配当原資部分四三パーセント、商品代金部分五七パーセントから成っていたものとすると、本件商法に加入するべく本件商品を購入した加入者は、その購入代金の四三パーセントを金銭配当組織に支出したものというべきであり、「本件商法の販売価格」も、前記のようにダイヤの各グレードを一定の範囲にそろえるなどすることにより、概ね三〇〜四〇万円の範囲内とされており(別紙認容額一覧表に記載のとおり、被控訴人らの本件商品である宝石の購入金額も、番号1を除き全て右の範囲内のものである)、その四三パーセントの金額にはそれほど差異はなかったものであるから、その金額の支出は、なお同法二条にいう「一定額の金銭を支出する」との要件を充たすものと解するのが相当である。

(二) そして、加入者がリクルート利益の配当を受け、さらにOM、BDAへと順次昇格して、自己の支出した本件商品購入金額の四三パーセントの金額を回収し、さらにはそれを上回る金銭を取得するためには、前叙のように、後続の加入者への本件商品販売の媒介に成功することが前提となっており、後続の加入者においても同様であるから、本件商法の金銭配当組織は加入者が無限に増加することを前提として成立している組織であるものというべく、従って、同法二条にいう「加入者が無限に増加するものであるとして」との要件を充たすものというべきである。

(三) また、前叙のように、本件商法におけるリクルート利益の配当は、先に加入した者が、自己の媒介により加入した後順位加入者の支出する金銭から、その支払を受けるのであり、自己が販売を媒介した後続の加入者及びその後続加入者がさらに販売を媒介した後続の加入者は、順次連鎖し三以上の倍率をもって段階的に自己の後順位者となる仕組みになっていたものであるから、後順位者が増加していけば、それら後順位者の支出した金銭から自己の支出した額を上回るリクルート利益の配当を受けることが可能である。

従って、本件商法が、「先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の支出する金銭から自己の支出した額を上回る金銭を受領することを内容とする金銭配当組織」という同法二条の要件を充たすものであることは明らかである。

3  以上のとおりであるから、本件商法におけるリクルート利益配当組織部分は、旧無限連鎖講防止法二条にいう同法が刑罰をもって禁止する金銭配当組織の要件を充たすものというべきである。

四本件商法の違法性

以上のとおり、本件商法におけるリクルート利益配当組織部分は、旧無限連鎖講防止法が刑罰をもって禁止する金銭配当組織の要件を充たすものであるから、前叙のとおり、控訴人会社や加入者会員がなす本件商品販売の個々の具体的な勧誘行為や媒介行為が殊更に違法なものであったか否かにかかわらず、それ自体違法なものというべく、また、本件商法ないし本件組織のうち、右違法なリクルート利益配当組織部分が四三パーセントに及ぶ割合を占めるのであるから、旧無限連鎖講防止法が同法二条にいう金銭配当組織の開設等を長期三年の懲役刑をもってしてまで禁止するものであることを考慮すれば、天然の宝石の商品流通組織部分が五七パーセント存するとしても、本件商法はなお全体として民法上違法なものであり、右商法により控訴人会社及び加入者会員が被控訴人らに対してなした本件商品販売の勧誘及び媒介の各行為もまた、民法上不法行為を構成するものと解するのが相当というべきである。

控訴人らは、本件商法は単なる宝石の販売に過ぎない旨主張するけれども、本件商法の右の違法な金銭配当組織部分の存在を無視するものであって、失当といわねばならない。

第三控訴人らの責任

前記証拠、<書証番号略>、弁論の全趣旨によれば、控訴人らは、本件商法におけるリクルート利益の配当であるコミッションの料率の設定自体からも、リクルート利益配当が本件商品の売上高の四〇数パーセントになるであろうことは充分予測していたものであり、本件商法のリクルート利益配当組織部分の実体についても充分これを認識したうえで、控訴人会社は、本件商法を会社として開始し、遂行したものであり、控訴人小城剛は、昭和五八年五月以降、控訴人会社の代表取締役として、控訴人会社の本件商法業務の全般を統括していたものであることが認められるから、控訴人らは、いずれも民法七〇九条により、被控訴人らが被った損害を連帯して賠償すべき責任を負うと解するのが相当である。

第四被控訴人らの被った損害

一財産的損害

被控訴人ら(一審原告亡茂山昌司を含む。以下略)が被った財産的損害である宝石代金等、MCC受講費用、印紙代についての当裁判所の事実認定は、原判決六五枚目表八行目冒頭から同六六枚目裏四行目末尾までのとおりであるから、これを引用する(但し、「原告」を「被控訴人」と、「原告ら」を「被控訴人ら(一審原告亡茂山昌司を含む)」と、「被告会社」を「控訴人会社」と、原判決六五枚目裏一行目の「ダイヤ」を「宝石の」と、同六六枚目表一二行目の「原告茂山、同喜多」を「一審原告亡茂山、被控訴人喜多」と、原判決添付の別紙損害一覧表及び別紙認容額一覧表を別紙損害一覧表及び別紙認容額一覧表のとおりに、それぞれ改める)。

二慰謝料

被控訴人らが本件不法行為によって受けた精神的苦痛が、財産的損害の賠償を受けただけでは慰藉されず、さらに金銭賠償を要するものとするべき具体的、個別的な事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

三損益相殺

1 購入した宝石の価格

被控訴人らは、控訴人会社の勧誘により本件商法に加入するに際し、別紙損害一覧表の購入宝石欄記載の宝石を購入して、その所有権を取得したから、被控訴人らの前記損害額から、右宝石の価格を控除するのが相当である。

被控訴人らは、控訴人らの違法行為により、無価値で不必要な右宝石を購入したのであるから、購入代金と同額の損害を被ったものである旨主張するが、本件商品の宝石の通常小売販売価格が、控訴人会社の販売価格(被控訴人らの購入価格)の七〇パーセント程度であることは前記認定のとおりであって、本件商品の宝石は決して客観的に無価値なものではないし、また、損害額の算定に際し、不必要なものであったかどうかといった購入者側の主観的事情を考慮するのは相当ではないというべきであるから、被控訴人らの右主張は失当というほかない。

そして、前叙のとおり、被控訴人らの本件商品の宝石購入(控訴人会社の本件商品の販売)自体は、本件商法のうち本来適法な商取引部分であることを考慮すれば、被控訴人らは右宝石の所有権を取得したことにより、右宝石を取得するのに客観的に必要とされる費用に相当する利益を得たものというべきであるから、被控訴人らの前記損害額から控除すべき右宝石の価格は、右宝石の客観的な取得費用、即ち、右宝石の通常小売販売価格であると解するのが相当というべきである。

そうすると、前叙のとおり、右宝石の通常小売販売価格は、その購入金額の七〇パーセントであり、別紙認容額一覧表の「宝石の通常小売販売価格欄」に記載のとおりであるから、これを被控訴人らの前記損害額から控除すべきである。

2 配当を受けたリクルート利益

<書証番号略>、被控訴人椿、弁論の全趣旨によれば、被控訴人大形、同椿は、いずれも本件組織に加入して自己の後続加入者への本件商品販売の媒介に成功した結果、別紙認容額一覧表の「支払手数料欄」に記載のとおり、被控訴人大形は三名への販売媒介成功により二三万八一二四円の、被控訴人椿も三名への販売媒介成功(三名の宝石の購入金額は三八万円と三九万円と三〇万円である)により、(控訴人会社の販売紹介手数料率の定めに従い、三か月にわたって購入され、最低値になる場合を想定すると)次の計算のとおり、少なくとも一八万六九〇〇円の、各コミッションの支払(リクルート利益の配当)を控訴人会社から受けたことが認められる。

1か月目 390,000×0.15=58,500

2か月目 380,000×0.18=

68,400(累積額 77万円)

3か月目 300,000×0.20=

60,000(累積額 107万円)

58,500+68,400+60,000=186,900

そうすると、右両名については、前記損害額から右各金額を控除すべきである。

3 右1、2の控除の結果、被控訴人大形、同喜多、同椿については前記損害額合計を控除額合計が上回るから、右三名の本訴各請求は失当であり、棄却を免れない。

四弁護士費用

本件事案の難易、審理の経過、認容額(別紙認容額一覧表の「内金額欄」記載の金額)等を考慮すれば、右三名を除く被控訴人らにつき、本件不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるべき弁護士費用額は、別紙認容額一覧表の「弁護士費用欄」に記載の各金額をもって相当というべきである。

五相続

一審原告亡茂山昌司が平成元年五月一日に死亡し、妻である被控訴人茂山久代が二分の一、子である被控訴人茂山寛、同茂山聖、同茂山さゆりが各六分の一ずつの各法定相続分割合で、一審原告亡茂山昌司の権利義務を承継したことは、当事者間に争いがないから、右被控訴人らは、別紙認容額一覧表の番号2欄に記載のとおり、一審原告亡茂山昌司が被った右損害の賠償請求権を相続取得した。

第五結論

以上のとおり、被控訴人大形、同喜多、同椿の本訴各請求は理由がないから、原判決中、右各請求に関する部分を取り消したうえ右各請求を棄却し、右被控訴人ら三名を除くその余の被控訴人らの本訴各請求は、控訴人らに対し、連帯して同被控訴人ら各自に別紙認容額一覧表の「合計欄」に記載の各金額及び同表の「内金額欄」に記載の各金額に対する本件不法行為の後である昭和六〇年六月一六日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却すべく、これと異なる原判決を右のとおりに変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項、九六条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官潮久郎 裁判官山﨑杲 裁判官水野武)

別紙損害一覧表、認容額一覧表<省略>

別表一、二<省略>

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